2009/10/26

日本人のハビトゥスと国際協力

仕事の文化を伝える
直線・直角  ブログ『コートジボワール日誌』より 
(一部抜粋させていただきましたが、是非上記2エントリー全文読んでみてください。)
 ルワンダ難民救援隊は、自らの駐屯地の整備のために、パワーショベルなどの建機を何台か保有していた。それで、よく国際機関や地元から、土木工事をやってほしいと頼まれる。ある日、難民キャンプの一部に、排水溝を掘ることになった。
 工事を行うのが自衛隊の精鋭たちであるから、排水溝は、もちろん直線・直角で完成した。ゴマの人々は、「水がちゃんと流れる」と感心している。排水溝が水を流さないでどうするか、と思うのは日本人だからである。人道危機の現場などでは、円滑に水が捌けるかどうかに頓着せず、ただ溝を掘って事足れりとする場合が多い。しかし、自衛隊はこんな僻地の混乱の中でも、きちんと測量をし、図面を描いて工事にとりかかったのである。そしてゴマの人々が感心したのは、出来栄えだけではなかった。
 「自衛隊員は、約束の時間にちゃんと来る。日程通りに作業を進める。そして期日にちゃんと作業を終えた。」
 人々はそういって感心した。そして何より驚いたのが、難民たちへの接し方であった。溝を掘るためには、溝の経路にあたる場所にテントを張って住んでいる難民たちに、退いてもらわなければならない。自衛隊員たちは、難民たち一人一人を訪ねて、まことに申し訳ないが、と事情を説明して退去をお願いした。別の土地を整地して、移転先を提供した。
 どれもこれも、日本人の私たちには当然のことである。日本国内そこかしこの工事現場で、ご迷惑をおかけします、と頭を下げている国民なのだ。しかし、この難民キャンプでは当たり前ではない。欧米系のNGOだと、溝を掘るといえば、いきなりブルドーザーを持ってきて工事を始める。溝の経路にあたった不運な難民は、荷物をまとめて逃げる。そういう出来事が、日常であった。だから皆、驚いた。
 私たちが意識しようがしまいが、誇ろうが誇るまいが、世界中の人々が、日本人の仕事のやり方、世間への接し方に、強烈な印象を受ける。そしてそれが次第に、日本への好意、さらには尊敬に変わっていく。

 ブログ『コートジボワール日誌』の筆者は在コートジボワール大使岡村善文氏とのこと。
日本人の現役大使がその活動や思うところを日々ブログでつづる、ということ自体、新しい時代の流れを感じる。
確か、雑誌か何かで読んだのだが、かつて大使は「あがり」のポストであったのだが、これからの時代、大使経験者にも外務省に戻って活躍してもらおうという人事改革の一環で、大使としては「若手」で起用された方らしい。

 今回、取り上げさせていただいた記事は、海外で活動する自衛隊が、時間を守る、礼儀を正すといった日本人として当たり前だと思っているような価値観、その「活動振り」が現地の人々に影響と感銘を与えた、という話。

 蛇足になるが、麻生元首相の著書、『とてつもない日本 (新潮新書)』の中でも似たようなエピソードが紹介されていた。
若干、記憶が曖昧だが、確かインドかどこかを、麻生さんが外務大臣だった折に訪問したところ、その国の地下鉄建設に関わった日本の民間企業が、定刻通りに仕事を始め、納期を守り、礼をもって人と接する姿に、「仕事のやり方」を教わった、と感謝された、という話だったと思う。

 類似のエピソードは様々なところで聞くし、海外で生活を送っていると、日本の常識が通じないことに、驚くことも多いので、逆に実感されるところである。
 こうした美徳は、知らず知らずのうちに体得されるものであるし、受け継がれていく文化であるが、意図的に大切にしていきたいとも思う。
「昨今、こうした日本人の美徳が失われつつある」というような主張は、古代エジプトの碑文にすら書かれていたという普遍の真理「最近の若者はなってない」、と同じくらい怪しいとは思うのだが、良し悪しは置くとして、世代ごとの風潮は確実に違うし、社会の雰囲気は世相によって変化するのは確実で、ここ20年不景気が基調として続き、閉塞感が渦巻く中では、危惧しなくもなくもない。
 日本社会において自然と培われてきたものであるにしても、海外との比較のなかで、自覚し、それが美点と認識されるのであれば、それらを育むよう意識的に取り組んでいくことも大事ではないだろうか。

 もう一点、自衛隊の海外協力の在り方についても示唆に富む話である。自衛隊には武器の制限がついて回る。
 武器が使えない中で、どのような形で国際貢献が可能か。
 本記事では、自衛隊の「規律」が成功をもたらした事例として良いことであるが、これが全ての場合に適用できるわけではないだろう。
 自衛隊を海外に出すのであれば、ある程度の覚悟をせねばならないし、あるいは、危険地には出しませんが、とした上で、上述のような日本の良さを生かせるような国際貢献を前面に出していくのか。
 単に「燃料補給もうしません」と言っているだけでは、どうしょうもないでしょう。(ちなみに、燃料補給に対する諸国の評価は、少なくとも日本で報道されているよりは、よっぽど高い、ようです。個人的には基本的に賛成です、危険の程度と得られる評価等を勘案すれば。)
 確たる信念と明確な国益を踏まえた国際貢献の理念、国内の合意をもとに送り出されるならまだしも、政治に振り回されるだけでは、派遣される方々も、たまったものではないでしょう。

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