2008/12/25

ルーブルは何処まで下がるか(2)

ルーブルが落ち続けている。
対ドルのグラフ($1=)はこんな感じ。


こちらのサイトから。

もともと、ソ連崩壊後の混乱、1998年の経済危機もあって、ルーブルは信頼の低い貨幣として扱われていた。ドルが、公式には使用禁止であっても、実態上通貨として流通していた時期もそう昔ではないし、ロシア人には貯蓄はドルでするものとも思われていたようである。
(因みに私がロシアに来た当初、家賃価格はドルで示されていた。)

それが、ここ1,2年は原油相場の急上昇、ロシア経済の発展、欧米からの投資拡大に伴って、ルーブルは上昇傾向にあり、ルーブルへの信頼は取り戻せたかに見えた。
(因みに、2年目の更新の折に、家賃価格はルーブルに変更になった。)
ところが、まず、8月のグルジア紛争を機に、欧米の資本が引き上げ始めルーブルの下落が始まった。その上、ロシア経済が頼みとする原油価格の下落、世界的な経済危機の影響でますますそのテンポを早めている。


ところで、ロシアの通貨ルーブルは、それまでのドル固定相場から2005年に通貨バスケット制を採用し、順次ユーロの比率を引き上げ、現在はドル55%、ユーロ45%の通貨バスケットにペッグされている。(将来的にはユーロの比率を70%くらいまで引き上げたいらしい。)

通貨バスケットは、国によって差異はあるが基本的に固定相場制の一種で、為替管理制度なので、政府・中央銀行は通貨バスケットの価格に固定するよう、あるいは一定の変動幅に収まるように為替介入を行っている。
ルーブルも一定の変動幅が設定されていて、ここ1,2年の上昇基調の時は(変動幅の上限ぎりぎりにルーブルが推移していたので)寧ろ切り上げる形で少しずつ変動幅を広げていたのだが、ここ数ヶ月、ルーブルの売りが凄まじく、中央銀行は支えきれずに変動幅を急速に拡大している。
この変動幅の拡大が、先のエントリーの記事で言うルーブルの切り下げ(девальвация)、なわけだ。
(という理解であってるのか??このあたりの細かい通貨バスケットの仕組みが良く分からないので、誰か詳しい人教えて下さい。)

いずれにせよ、この切り下げを、先のエントリーの記事にあるように、11月、12月でロシアの中央銀行は8回にわたって行った。しかも、12月ではその頻度も率も拡大している。


では、このルーブルの下げの原因は何か。
まず、欧米を中心とした資本の流出である。もともとロシアの好景気を支えていたのは海外企業の進出、投資であり、ロシアの企業は(記事中でロシア私企業は対外債務1億ドルを返済しなくてはならないとある通り)欧米から多くの借入をしていた。
それが、経済危機以降、自身の資金繰りのために欧米企業は資金を一斉に引き上げているし、欧米の銀行は(それ自体が自国で国有化されたりしてますけど)貸し剥がしにかかっている。
また、例えば、ロシアの株式指標RTSは今夏の最高値から70%近くも下落したが、それまでの高騰は個人投資家層が育っていないロシアでは(一部富裕層もだけど)外国勢からの投資の割合が多かったと考えられる故に、この数字は相当程度資本が流出したことを物語っているだろう。(実態は統計で外国人投資家の割合と額を比べなきゃわからないですが。)

それから、先述のとおりソ連崩壊後の混乱と98年の経済危機を身をもって経験しているロシア人は、危機に当たって簡単に資産をドルに移そうと考える、つまり、家計からの資本の流出にも目配せしておく必要がありそうだ。実際の規模は分からんが、既にそうした動きもあるようだし、これから先、更に見通しが悪くなった場合、街の両替所に行列、なんていう光景が広がることになるかもしれない。
(そういえば、資本流出を和らげ、外貨準備高を維持するために、ルーブル政策の転換を世銀が主張しているなんて話もありましたね。)

次に、石油を初めとする資源価格の急激な下落も一因であろう。
WTIで1バレル最高値140ドル台から30-40ドルという4分の1近い下落に示されるような、エネルギー関連の価格低下は、(統計にもよるが、大雑把に確か)GDPの40%、輸出の60%をエネルギー関連に依存するロシア経済を直撃している。
ルーブル安自体は(ルーブルでの原油取引も始まっているようですが、外貨での取引ならば)輸出には有利なはずだけれどこの価格下落では如何ともしがいたいでしょう。
確か、ロシアの政府予算の想定原油価格は70ドルほどだったので、相当厳しいはずで、現在はこれまでに積み上がった外貨準備高を取り崩して、自国企業の援助やルーブルの安定化(そういえばIMFにも100万ドルくらい拠出してたな)を行っているようですが、記事の通り準備高は8月の5億9810万ドルから12月12日時点で4億3540万ドルに急減しており、全くもって雲行きは怪しい。

そして、このルーブル下落の影響についてですが、やはりまずインフレ悪化でしょう。
Новая Газета紙の報道によれば、年初からのインフレがロシア統計局筋で13%、政府筋で13,5%を見込んでいるそうですが、2000年以降毎年20%近いところから10%程度まで落ち着いて(?)きたことからすれば、また跳ね上がる、と言える。
個人的には先進諸国が経済活動の停滞からデフレ懸念にシフトしているように、ロシアのインフレも収まりゆくか、と思っていたのですが、まぁ、これほどのルーブル安では仕方がないでしょう。
それと、特に問題なのは、牛肉、冷凍魚、茶、菓子類等が例示されている通り、食料を初めとして日用品を中心に起こっていることであろう。これらは輸入に頼っている部分が大きいと思われる。
不動産価格等は投機が減り、落ち着くと言う観測もあるが(寧ろ造ったのに売れない物件が出てくるんじゃないか?)、生活周りのインフレが続くようだと、直に国民の生活を圧迫してしまう。

これに関連して、社会情勢の悪化が心配。
先日、ロシア各地で、国内産業防衛のための輸入車への関税引き上げの政策(WTOに加盟してないから、こういう無謀な政策打つんだよ、まったく)に反対するデモ(のようなもの)等がロシア各地、特には日本の中古車輸入産業が盛んな東部で起こっていましたが、現在の経済情勢、困窮も背景に見え隠れしている気もします。
ロシアでは、外国人への襲撃等が度々ニュースになってきていましたが、経済発展と共に落ち着いてきたようでもありました。これが、経済悪化、物価上昇、失業者増加に影響されて、また激しくなるかもしれません。
ロシア内務省が、社会情勢の不安定化、移民に対する反対の運動の可能性も排除しない、と言ってる、なんて記事もありました。


いずれにせよ、暫くは不安定な情勢が続き、来年は苦難の年となるのでしょう。
(タイトルにそぐわず、何処まで下がるか、予測までは辿り着きませんでした。)

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